2010年4月12日月曜日

「妖怪クツベー」

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● 最初の仕事を終えたときの「NB MR769SB」


 さあ、こんな高価な靴を買ってしまってどうするか。
 ランニングシューズなのだから走らねばなるまい。
 スポーツAマートのバーゲン靴なら何に使っても惜しくはない。
 が、$140となると、もったいない。
 カンペイは砂漠を走っている。
 そこからオーラを送って私にシューズを買わしてしまった。
 友人は水戸街道を走ろうとしている。
 私だけ隠居モードで、日々呼吸だけして過ごすわけにもゆかなくなった。
 見る目、世間の風は冷たい。

 その針を刺すような世の風に押し出されて、昨日のこと走りにいった。
 まあ、住んでいる団地のまわりをグルリと回るくらいなら2周でも3周でも4周でもどうということはない。
 距離の問題ではない。
 家にいるのとさほど心理的には変わりがない。
 やめたくなったらやめればいいのだ。
 目の前は我が家である。
 走りつかれて歩いてもすぐに玄関が見える。
 が、走りに出かけるというのはちょっと違う。
 心構えをして出て行くということである。
 この差は大きい。
 
 我が人生でこんなに高価なシューズを履いたことはない。
 革靴ですら数千円のシロモノだ。
 何か足にそぐわない。
 こんな高いものを足で踏んずけていいものだろうか。
 お天道様に申し訳なくはないだろうか。
 どうもギクシャクする。
 でも、しばらくすると慣れてくる。
 高価であろうとなかろうと、もう踏んずけてしまったのだ、後へは戻れない。

 今日は風がない。
 海沿いは風に悩まされる。
 歩いているときはそれが心地よい。
 が、走るとなると向かい風は戦いである。
 今日はガスっている。
 その分、陽射しが弱い。
 陽にいたぶられると、ジワジワと体を蝕まれる。
 その点、今日は条件がいい。
 でも、蒸暑くなっている。

 ビッチリと汗をかく。
 汗をかくということはいいことだ。
 歳をとると解毒作用が低下する。
 食べたものには若干の身体に合わないものが含まれている。
 言い換えれば対人体毒素である。
 その最たるものがエネルギーである。
 歳をとるとエネルギーを消化できなくなる。
 それが、すこしづつ体に溜まってくる。
 レベルを越すと症状が出てくる。
 いわゆる糖尿だ。
 だから食べるという行為が、歳をとると大敵になる。
 歳をとったら、常に体に溜まるエネルギーを発散させてやらないといけない。
 汗をかくと体に溜まったエネルギー毒素を体の外に押し出してくれる。
 歳をとったら栄養を摂ってはいけない。
 エネルギー食は控えた方がいい
 また、歳をとったら汗をかいた方がいい。
 解毒作用の補助をしてくれる。

 タンクトップのシャツが汗で色変わりしている。
 なかなか順調だ。
 そう思った、のだが。
 突然来た。
 体が動かなくなる。
 車まであと2キロほどだ。
 走っているうちに回復するだろうと思っていた。
 とんでもない。
 どんどんおかしくなる。
 あと1キロだ。
 歩いてもいい。
 いや、このニューシューズのおろしたその日に、歩くことになったら、「靴の神様」に申し訳がたたない。
 周りをみるのはやめる。
 ただ地面を見て、流れいく路面のみが見方である。
 流れていれば、いつかは着く。
 あの樹の下で終わりだ、もう少しだ。
 体が揺れる。
 ほとんど歩いているのと同じ速さ。
 大丈夫、目は見える。
 来た、木の下だ。
 止まる。
 ヤバイ。
 木々、建物のアウトラインが二重三重に滲んでいる。
 地面が緩やかに波打っている。
 此処で気が抜けるとひっくりかえる。
 一度、倒れたらもう立てなくなる。

 これまでそういう風景を2回ほど見たことがある。
 一度はGCマラソンのとき、食堂で見物していたら、となりに数人の集団がいた。
 走り終わったグループでお茶を飲んでいた。
 その一人が椅子を立った。
 その途端、ガラガラーンと彼は周囲の椅子をひっくりかえして、フードコートの床に倒れこんだ。
 私の目の前でだ。
 友人たちが取り囲む。
 しばらくして、やってきたタンカに移し変えられて運ばれていった。
 もう一度はランナーズクラブの練習風景でである。
 日曜日にはGCランナーズクラブが内海の遊歩道を使ってランニング練習をする。
 ネーム入りのお揃いのTシャツを着てそれぞれのペースで走っている。
 その遊歩道を通りかかったら、ご老人が一人芝生に倒れこんでいた。
 動けないようだ。
 周囲の人が救急車を呼んでいた。

 3人目は我れ自身か。
 フーときたら終わりだ。
 倒れてはいけない。
 倒れる前に座り込め、座り込むのだ、と言い聞かせながら、そばのベンチに向かう。
 その椅子に体を横たえる。
 倒れなかった、という安堵感がひろがる。
 しばらくの間、横になっていた。
 歩けるか、大丈夫のようだ。
 近くの車に向かう。
 中にペットボトルがあり、冷水が入っている。
 頭からかける、腕に、顔に、そして飲む。
 何とか一息だ。
 これで、緊急状態は抜けた。

 一体、何が起こったのだ!

 帰ってすぐに風呂に入る。
 湯船に体を沈める。
 普通なら心地よい肉体疲労が押し寄せてくるのだが、今日は違う。
 頭、体が異常だ。
 ベッドに横たわる。
 帰ってきて3時間半たった。
 昼食、ザルうどん。
 いつもならツルリと入っていくのに、今日はだめ。
 1/3を残してしまう。
 食欲が止まっている。
 何とか落ち着いてきたのは夕方、8時間ほど経過してから。
 
 再び、何か納得できる理由をつけないといけない。
 とすればこうしかない。

 きっと、私が買ったこの「MR 769SB」には神様ではなく
 靴妖怪「クツベー
が住んでいるに違いない。
 それが私にこの靴を買わさせ、初めての使ったその日に不幸をもたらしたのだ。

 ここには妖怪ポストはない。
 ついでに足の安全を守ってくれるお地蔵様もいない。
 ああ、困った!


 
 科学的に言うと「脱水症状」だと思います。
 高価な新しい靴を買ったために、元をとらねば走らねばと思い、ついつい無理をしてしまい、汗をかき過ぎたのではないかと思います。
 でも、新しいシューズをはじめて使ったその日に、それまで経験したこともないような脱水症状を起こしたということは、やはり「クツベー」の存在を否定することはできないと思います。

 上の記事はサザンクロスタイムスの4月号に載っていたゴールドコースト・マラソンの案内。
 10kmとハーフマラソンとフルマラソンがあります。
 せっかく、ランニング専用の靴を買ったのだから、参加しなくてはと思っています。
 エントリーするとなればもちろんフルマラソン[42.2km]。
 7時間歩けば完走というより完歩できる。
 でも「7時間」ね。
 やめておきましょう。
 ちょっと無理。
 というより、まるで無理。
 10kmなら大丈夫。
 今日は脱水症状にもかかわらず、10kmは走った。
 10kmならいける。
 朝晩少しずつ練習すれば、ハーフ21kmくらいは走れるよ!
 練習はイヤ、練習はキライ。
 つらい練習をするなら参加しない方がいい。
 週1回だけ、嫌々ながら仕方ないからやるとしたら、あと2カ月半でどこまでいく。
 21キロを歩かずにゆっくりでいいから走って帰ってこれれば十分。
 キロ7分なら147分(2時間27分)、
 7分半なら2時間37分。
 リミットは2時間40分てとこかな。

 もちろん目標はキロ7分を切ることである。
 2時間25分。
 果たして、どうなるだろう。


● 花いろいろ